心理学メンタルコーチング・武士道に学ぶ5つの軸と8つの習慣

感情の嵐を「絆」に変える◆ジョン・ゴットマン博士の『感情コーチング”5ステップ』

目次

【第1章】なぜ今、この悩みが増えているのか(共感)

夕方、ようやく家に着いた瞬間。
子どもが泣き叫び、床を蹴り、手がつけられない。

「また始まった…」と思うだけで、胸が固くなる。
なだめても、励ましても、火に油みたいに荒れる。

外では“いい子”だったのに、家でだけ爆発する。
この落差が、親の心を一番削ります。

そして親は、つい自分を責めます。
「私の育て方が悪いのかな」と。

でも先に、いちばん大事な前提を置きます。
これは、あなたのせいで起きている話ではありません。

「困った行動」の正体は、言葉にならないSOS

癇癪は、子どもが下手だから起こるものではありません。
むしろ、気持ちが大きすぎて言葉にできないときに起きます。

たとえば「うまくできない」「思い通りにならない」。
そんな瞬間に、体が先に反応してしまう。

夜になると不安が強まる子もいます。
眠りに入る前は、心の防御が薄くなりやすいから。

つまり家庭は、子どもが一番“素”になれる場所。
だからこそ、感情が噴き出すことがあります。

親のほうも、限界ギリギリで回している

子どもの感情は、親の心にぶつかってきます。
親だって、疲れていて、焦っていて、不安もある。

「ちゃんと寝かせなきゃ」「迷惑をかけたら…」。
そんな責任感が強いほど、爆発は起きやすい。

そして今は、相談窓口が整備されるほど、
親子の悩みが“表に出やすい時代”にもなりました。

たとえば東京都は、親子の悩みをLINEで相談できる枠を案内しています。
文部科学省も、子ども・保護者が使える24時間相談ダイヤルを周知しています。

これは「弱い親が増えた」という話ではありません。
声を上げてもいい、という社会の空気が増えたのです。

ここで希望の話を、少しだけ

この状況に対して、近年よく使われる実践が、
**Emotional Coaching(感情コーチング)**です。

提唱の中心にいるのは、心理学者のジョン・M・ゴットマン
夫婦・家族関係を研究してきた、ワシントン大学の研究者です。

研究分野でいうと、家族心理学・感情の社会化(親が感情を教える過程)。
ざっくり言えば、感情を否定せず、扱える形に“翻訳”する技法です。

ここで今日の核心フレーズを置きます。
感情は止めるものではなく、通り道をつくるもの。

現代は、情報のスピードが速すぎます。 私たちは、
自分自身の感情を消化する間もなく、
誰かの感情の処理を迫られています。

心が疲弊するのは、
あなたの能力不足ではなく、この現代の宿命、
「速すぎる世界」との不一致が原因なのです。

まずは、深く、一度だけ呼吸をしてみましょう。
この場所では、
あなたは「正解」を出す必要はありません。

ただ、横に座って、一緒にその心の重荷を少しずつ
紐解いていきましょう。

次章では、その感情の「通り道」のあけ方、
脳と心の流し方を、
学生にも、わかりやすい言葉に分解していきます。

【第2章】心理学的に何が起きているのか(理解)

癇癪のとき子どもは、意地悪をしていません。
感情を使って非常ベルを鳴らしている状態です。

私たちの心の中に、「感情」という名の小さなお客さまがやってきたとき。
多くの人は、そのお客さまをどう扱えばいいか分からず、戸惑ってしまいます。

特に感情という、お客さまが「怒り」や「悲しみ」といった、
激しい姿をしているときはなおさらです。

ここで、現代の心理学が私たちに授けてくれる、魔法のような知恵があります。
それが、ワシントン大学の名誉教授であり、世界的な

心理学者ジョン・ゴットマン博士が提唱した「感情コーチング(Emotion Coaching)」です。

ゴットマン博士は、数千組の親子を数十年にわたって見守り続けてきました。
その研究の中で、博士はある驚くべき発見をしたのです。 それは、

子どもの心の成長を助ける親は、子どもの「感情」を否定せず、むしろ
「絆を深めるチャンス」として捉えているということでした。

この非常ベルの中心は、扁桃体という警報装置です。
危険や不快を感じると、先に体を動かします。

だからその瞬間は、理屈が届きにくくなります。
言葉での制圧は無理なのです。

「言い聞かせ」が効かないのは、自然な反応です。


感情コーチングの土台は「親のメタ感情」

中心の研究者は、心理学者のジョン・M・ゴットマンです。
家族・感情の研究で知られるワシントン大学の流れです。

ゴットマンらは、親には「感情への哲学」があると言います。
これを親のメタ感情哲学(PMEP)と呼びます。

メタ感情とは、感情そのものではありません。
感情に対して親が抱く感情のことです。

たとえば「怒りは悪いもの」「泣くのは弱さ」など。
この前提が、声かけの選択を静かに決めていきます。

感情コーチングは、ここをやさしく組み替えます。
感情=問題ではなく、サインとして扱います。

感情を通じて、サインが送らているのです。


「自己調整」は子ども一人で生まれない

次に重要な用語が、感情調整(Emotion Regulation)です。
これは「感情を消す」ではなく、波を扱う力です。

この分野の代表研究者は、ジェームズ・J・グロスです。
感情調整の枠組みを整理した、スタンフォード大学の研究です。

グロスの考え方では、調整にはタイミングがあります。
早い段階で整える方法と、後で抑え込む方法です。

「泣くのをやめさせる」「怒りを押さえさせる」だけだと、
後者の“抑え込み”になりやすいと整理されています。

子どもはまだ、早い段階で整える力が育ち途中です。
だから最初は、親の力を借りるのが自然です。

これを、共同調整(コ・レギュレーション)と呼びます。
親が足場を作り、子が少しずつ内側に学ぶ過程です。

◎親の落ち着いた声、ゆっくりした呼吸、短い言葉。
それ自体が、子どもの脳への“外付けブレーキ”になります。


「言葉にする」が、感情の熱を下げる

もう一つ、大事な技術が感情ラベリングです。
気持ちに名前をつける、たったそれだけの行為です。

●●な気持ちなんだね。
●●みたいだったんだよね。

この領域の代表研究者は、マシュー・D・リーバーマンです。
UCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)の脳画像研究です。

研究では、感情に言葉を当てると、扁桃体の反応が弱まる。
その一方で、前頭前野の活動が高まる可能性が示されました。

イメージで言うと、こうです。
感情は熱いお湯で、言葉化は“注ぐためのコップ”です。

 

つまり、子どもに起きているのは「未熟さ」ではない

感情とは、海に立つ「波」のようなものです。
「波」そのものに、良いも悪いもありません。

ただ、自然に生まれては消えていくものです。 しかし、
私たちはつい「そんなに高い波を立てるな!(怒るな!)」と

波を抑え込もうとしてしまいます。
これが
「感情軽視」と呼ばれる残念な状態です。

感情コーチングの考え方では、こう捉えます。
「波(感情)を受け入れること」と「泳ぎ方(行動)を教えること」は別物である、と。

「どんな感情を持ってもいい。けれど、どんな行動をしてもいいわけではない」

例えば、子どもがおもちゃを投げたとき。 「投げちゃダメ!」と行動だけを叱るのではなく、
「思い通りにいかなくて、悔しかったんだね」と、まずは

その「悔しさという波」を言葉にしてあげます。 これを心理学では
「ラベリング(名前をつけること)」と呼びます。

不思議なことに、感情に名前をつけてもらえると、
脳の興奮はすーっと静まり始めます。

自分の心の中にいる暴れん坊の、感情のお客さまに、
「悔しいくん」という名前がついただけで、

子どもは「分かってもらえた」という安心の岸辺に辿り着けるのです。
この「安心感」という土台があって初めて、人は「次はどうすればいいか」

という解決策を考える余裕を持つことができます。 感情コーチングとは、
相手の横に座り、一緒にその荒波を見つめる「心の伴走」なのです。

感情が通れる道を、横で照らす伴走者です。

 

【第3章】最新研究(論文)紹介

ここでは「感情コーチング」が、
実際に効いたかを論文で確かめます。

結論から言うと、近年の研究は、
「親の関わり方が変わると子も変わる」を支持します。

ただし万能薬ではなく、効き方には条件もあります。
その“現実的な手触り”まで含めて紹介します。


研究①:オンラインでも「感情コーチング」は伸びる

Burkhardt ら(2024)Scientific Reports(RCT)

研究者:Susan C. A. Burkhardt ら。
機関:チューリッヒ特別支援教員養成大学。

内容は、親向けプログラム「Tuning in to Kids」。
感情に気づき、言葉にし、限界線も学びます。

ポイントは、**無作為化比較試験(RCT)**であること。
偶然ではなく、介入の効果を見やすい設計です。

示された方向性はシンプルです。
親の“感情への対応”が改善し、子の行動面も良化。


研究②:自宅で学べる版でも、親の「否定」が減る

Havighurst ら(2024)Frontiers in Psychology(RCT)

研究者:Sophie S. Havighurst ら。
機関:メルボルン大学・精神医学部 Mindful センター。

150名を、介入か待機群にランダム割り付け。
結果として、親の**感情の否定(dismissiveness)**が減少。

同時に、**感情コーチング(coaching)**が増えました。
親の報告では、子の問題行動と不安も改善しました。

大事な注記もあります。
教師評価では変化が出にくい面がありました。

つまり「家で荒れる子」ほど、
家庭内の変化が先に見えやすい可能性があります。


研究③:RCTを束ねると、効果は“小〜中”で確かに出る

England-Mason ら(2023)Clinical Psychology Review(メタ分析)

研究者:Gillian England-Mason ら。
機関:カルガリー大学、マクマスター大学など。

15件のRCTを統合し、全体傾向を見ています。
親の感情的関わりは中程度改善しやすい。

子の感情スキルや行動の改善は、小〜中程度
そして「誰に、いつ、何が効くか」は今後の課題です。

ここが希望です。
大きく一撃で変えるより、積み上げで効く領域です。


3本を一言で束ねると

感情コーチングは、
子どもを直す技術ではなく、親子の感情の波を整え、
結果力強く、伴走できる技術
なのです。

だから結果は「癇癪がゼロ」ではなく、
「戻りが早い」「長引きにくい」として現れやすい。

この“効き方の現実味”が、研究と一致しています。

 

【第4章】東洋哲学はどう捉えていたか(意味)

東洋の古典は、感情を「敵」とは見ません。
むしろ感情は、心の扱い方を学ぶ「稽古場」です。

感情コーチングが目指すのも、同じ方向です。
感情を消さずに、関係を壊さずに、通すことです。

ここからは、古典を“現代語”に翻訳してみます。
精神論で我慢を強要せず、逃げ道も残して書きます。


① 論語:怒りを「移さない」という品格

『論語』には、顔回についての言葉があります。
**「怒りを遷さず(不遷怒)」**という一節です。

現代語にすると、こういう意味になります。
「怒りは湧いていいが、八つ当たりにしない」です。

これは感情の否定ではなく、関係の保護です。
怒りを“誰か”へ運ばないことが、徳になるのです。

感情コーチングで言えば、まず感情に名前をつける。
その上で、行動の線引きを静かに守る、に近いです。

親も子も、同じく怒りを持っていい仲間です。
ただ、怒りの矢印だけは、別の場所へ向け直します。


② 禅:平常心とは「平気」ではなく「戻れる心」

禅語に、**「平常心是道」**という言葉があります。

出典は、公案集『無門関』の第十九則として紹介されます。

ここでの平常心は、「鈍感」や「無感情」ではありません。
日常の揺れの中で、戻ってこられる心のことです。

子どもの癇癪は、心が“帰り道”を見失った状態です。
だから親は、説得より先に帰り道を照らす役になります。

感情コーチングの「寄り添い→言語化→落ち着き」は、
禅のいう「平常へ戻る道筋」に、とても似ています。


③ 武士道:克己は「抑える」ではなく「守るための選択」

武士道は、強さを“攻撃”としては扱いません。
義や仁という徳が、強さの方向を決めると説きます。

現代語にすると、こう訳せます。
「強さとは、相手をねじ伏せる力ではない」です。

たとえば克己(自分に克つ)も、誤解されがちです。
感情を押し殺すのではなく、守りたい価値を選ぶこと。

親の場面なら、価値は「安全」と「信頼」です。
怒鳴って勝つより、落ち着いて信頼を守るほうを選ぶ。

それは優しさというより、長期戦の戦略です。
親子の関係は、勝敗ではなく回復力で育ちます。


ここまでを一つに束ねると、古典はこう言っています。
感情は消すものではなく、道を外さず通すものです。

次章では、この“道”を日常で使える形に落とします。

 

【第5章】まとめ(希望の余韻)

癇癪や不安や怒りは、
「親の失敗」ではなく、脳の非常ベルでした。

感情コーチングは、
そのベルを壊すのではなく、音量を下げる道です。

感情は止めるものではなく、通り道をつくるもの。
今日の核心は、ここに尽きます。


5分以内でできる、感情コーチング「超ミニ手順」

全部を完璧にやらなくて大丈夫です。
一回の癇癪で、全部できなくて当たり前です。

できるところだけで、効果は積み上がります。

① まずは親が「一息だけ遅くする」

声を出す前に、吐く息を一回だけ長くします。
子の脳に、外付けブレーキを渡す準備です。

「落ち着け」は言わないで大丈夫です。
呼吸のほうが先に伝わります。

② 感情にラベルを貼る(短く、当てにいかない)

言葉は短く、推測の形にします。
当てにいくと外れたときに反発が出ます。

例:
くやしかったのかも
こわかったのかも
いやだったのかも

これはUCLAの脳研究が示す
“言葉で熱が下がる”方向性にも沿います。 (pubmed.ncbi.nlm.nih.gov)

③ 望みを拾う(行動ではなく、願い)

癇癪の奥には、だいたい願いがあります。
「うまくやりたい」「わかってほしい」などです。

例:
「できるようにしたかったんだね」
「わかってほしかったんだね」

ここで子どもは、少しだけ孤独が減ります。
孤独が減ると、感情の熱も下がりやすいです。

④ 線引きは“短く、静かに”置く

肯定するのは感情で、許すのは行動ではありません。
この区別が、親子を守ります。

例:
「怒っていいよ。叩くのはだめ
「泣いていいよ。投げるのは止めよう

研究でも、感情を受け止めつつ
関わり方を整える介入が支持されています。

※ここは、古典の「不遷怒」の現代語版です。
怒りを否定せず、矢印だけ守ります。 (kanbun.info)

⑤ 落ち着いたあとに「次の一手」を一緒に決める

癇癪の最中は、学習が起きにくいです。
落ち着いた後が、稽古の時間です。

例:
「次はどうする?」ではなく、選択肢を出します。
「次は、AとBならどっちがよさそう?」

小さな選択が、自己調整の芽になります。
戻れる心は、こうして育ちます。


うまくいかない日の“逃げ道”も用意しておく

親が限界の日は、技法より安全が優先です。
次の二つだけで、合格にしていいです。

1つ目。
「今は守るね。あとで話そう」と言って距離を取る。

2つ目。
「私もつらい」と、短く正直に言う。

親が人間であることは、教育の失敗ではありません。
それは、子にとっての現実のモデルになります。


最後に、静かな勇気づけ

子どもは、感情の扱い方を練習しています。
あなたもまた、親として練習の途中にいます。

だから今日、うまくいかなかったとしても。
それは「向いてない」ではなく、ただの途中です。

親子は、勝ち負けでは育ちません。
戻ってこられる回数で育ちます。


感情がざわついた、この時、
あなた自身の「メタ感情」は何をつぶやいて
サインを送っていますか。


本記事は、最新の心理学的知見と東洋哲学(禅・武士道)を統合した
『Psycho-Bushido』スタイルの解釈をもって執筆されています

 

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